第1章風駆ける 笠原ちなみ 第2節の1~2

沈黙のプレリュード

小説の設定とは大分違うけど、生成AIのイメージはこれ…今後自分でちゃんと描いて差し替えます


推敲版◆P1−2−1 面接

2022年2月

空はどんよりと低く垂れこめ、今にも雪が落ちてきそうだった。

246の交差点を渡り、駒沢公園通り沿いの建物の2階に綾川事務所はあった。通りから見上げると、ポスターの張ってない窓のひとつだけ、明かりが灯っている。

――来てしまったけど、国会議員の事務所の面接って、何を聞かれるんだろう?

私の経歴でアピールできることって……PCスキル? HPの更新? 動画作成も少しは出来る…

電話とかほとんど取ってこなかったし、ここでは多そうだな……クレーム対応とか?

検索しても、まったく情報が出てこないのはどうして……?

自信のないまま立ち尽くす。でも、背筋だけは伸ばした。

――背筋を伸ばせば、気持ちも伸びる。

階段を上り、事務所のドアの前に立つと、自分に言い聞かせるように深呼吸してから、ノックをしてドアを開けた。


+ + + +

コーヒーの香りが、ふわりと鼻をくすぐる。

心地よく湿った暖かさが、凍えた身体を包み込んだ。

「こんにちわー。10時にお約束いただいている、笠原です」

スーツ姿の男性が、立ったままコーヒーカップを傾けていた。

「ああ、お待ちしておりました。どうぞ」

土曜日の面接だったからか、部屋には彼しかいなかった。

40代くらいだろうか。黒縁のメガネは、上だけにフレームがあるタイプ。

声は少しこもっていて、落ち着いた印象の人だった。

私は手袋をはずし、マフラーをとって、お辞儀をする。

「第二秘書の久坂と申します。どうぞこちらへおかけください」

「本日はお時間いただき、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。お話は先生から伺っていますし、履歴書も拝見しましたよ。

お飲みものは何がよろしいですか? コーヒー、紅茶、緑茶……あと、ココアがあったかな」

「じゃあ、私もコーヒーでお願いします」


+ + + + 

彼は書類に目を落としながら、ふと微笑んだ。

「“子どもの教育に関心がある方ですね”って、先生がおっしゃってましたよ」

私は思わず聞き返した。

「“どんな環境の子でも、好きな教育を受けられる場をつくりたい”ってところですか?」

「いや……すみません。特に具体的な話は聞いていないんですけどね」

「あの……綾川先生は?」

「昨日から宮古に行ってます」

「宮古……岩手県ですよね。津波被害のあった」

「ええ、復興支援で。避難所の跡地に学童施設をつくる計画があって。

先生は、ずっと継続して関わってらっしゃいます」

書類をめくりながら、久坂さんは話を続けた。

「……で、今の会社はいつ頃退職できそうですか?」

「えっ? あ、はい……引き継ぎと有給の消化を考えると、5月くらいかと」

「了解。そのつもりでこちらも準備しておきます。

会社にはもう、退職の意思を伝えましたか?」

「いえ、まだです……」

「引き止められて退職が延びそうなら、また連絡ください」

「……」

「それと、くれぐれも変な辞め方はしないでくださいね。先生のイメージに関わるんで」

ちょっと強めの口調に、私は思わず身構えた。

「……あの、それって……採用、ってことなんでしょうか?」

久坂さんは顔を上げ、少し驚いたように笑った。

「え? 先生からはそう聞いてますけど……」




推敲版◆P1-2-2/6

2022年3月 引越

DXの浸透のおかげで、属人的な業務は劇的に減り、退社の手続きは驚くほどスムーズに進んだ。

田口さんがいなくなり、新しいリーダーが着任してから、弘哉さんは一皮むけたようだった。以前よりも、ずっと頼れる先輩になっていた。

だから、私の担当業務をいったん全部弘哉さんにお願い(丸投げ)して、後任の人に引き継いでもらうという話でリーダーと合意が取れた。

ーうん、大丈夫なはず!ー

最近また中途社員が増えてるし、この会社、もしかしたら“いい会社”なのかも……と今さら思う。そういえば、離職率も低いんだよな。同期もほとんど辞めてないし。

んんんん、ま、そういうのは人それぞれだ。今はもう考えない。


+ + + +


ただ一つ、急いで考えなきゃいけない問題があった。そう、またしても住むところ!

借り上げ社宅だったので、退職と同時に退去が必要になる。

一時的に結衣のところに身を寄せてもいいとは言ってくれたけど、学生時代と違って、今は家財道具一式がある。さすがに今回は甘えるわけにはいかず、きちんと住む場所を探さなきゃと思っていた。

そんなタイミングで、綾川事務所から電話がかかってきた。

着信――出る。

「笠原さんのお電話で間違いないでしょうか?」

「はい、そうです。笠原です」(女性の声だ)

「綾川事務所の日向と申します。はじめまして。取り急ぎなのでお電話しました」

「はじめまして。よろしくお願いします。はい、大丈夫です」(早口だけど聞き取りやすい)

「今まで大手企業で、借り上げ社宅だったんでしょ? 退職後、住むところは決まってる?」

「……いえ、まだです」(まさに今、困ってたところ!)

「うち、そんなに給料高くないから、今みたいなとこはちょっと難しいよ」

「……はい」(そうですよね)

「でね、後援会の方で学生に貸してる人がいて、特別に相談してみたの」

「ありがとうございます」(学生寮みたいな感じ?)

「学生と同じく“4年までの契約・延長なし”って条件ならOK、ってところまで話つけてあるから」

「助かります……」(4年後のことは、その時に考えよう)

「ただ、ちょっとこだわりのある方だから、面接が必要なの」

「面接ですか……」(事務所のときはなかったのに)

「私あなたには会ってないけど、先生や日下部さんの話聞いてる感じだと、たぶん大丈夫よ」

「ありがとうございます」(そういえば、この人……何者?)

「それで、次の土曜の午後、空いてる?」

「はい、空いてます!」(なんか予定あったっけ? でも優先順位はこっち!)

「じゃ決定ね。トシ子さんに連絡して、物件押さえとくから」

「よろしくお願いします」(家賃、いくらなんだろう……)

「住所や間取り、家賃、それにトシ子さんの連絡先も含めて、あとでメールで送るから確認してね」

「ありがとうございます」(この人、こっちの考えてること見えてるのか?)

「よろしくねー。あ、そうそう、もし行ってみて合わなかったら断って大丈夫。

でもその場合は速攻で連絡して」

「わかりました」(速攻って……その場で?)

「なにか質問ある?」

「……今のところ大丈夫です」(こういう時にいい質問できたら“できる人”って思われるのに)

「じゃ、よろしくねー!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

……はぁっ。なんだこのスピード感。

今どき電話ってのも珍しいけど、こういう時ってLINEとか使わないんだろうか。

でも、日向さんって誰?

久坂さんが“第二秘書”なら、この人が“第一秘書”?



事務所から南へ歩いて20分ほどの、静かな住宅街。

アパートではなく、3世帯住宅のような作りだと聞いてきたが、確かにこの辺りには、リホームして賃貸の部屋を増設したと思われる住宅が、他にもいくつかあった。

グーグルマップを頼りにたどり着くと、少し余裕がある敷地に建つ3階建ての住居が現れた。

それはちょっと不思議な建物だった。

外階段が建物の横についていて、左巻きにぐるっと回って建物の後ろで2階と3階へつなぐ階段があり、さらに屋上まで行ける構造だった。

敷地の境界に柵はなく、木々や草花が自然に植えられていて、生け垣のようになっていた。

「表札があるって言ってたけど、門はなさそうだけど…ポストはどこだ?」

丸い外灯の着いたレンガ造りの円柱がポストになっており、その上に≪Nagatani≫と筆記体で書かれた金属がついていた。

庭には、小学生くらいの女の子がいて、猫と遊んでいた。

「すいません……長谷さんのお宅でしょうか? 綾川事務所からの紹介で来た、笠原と申します。ご家族の方、いらっしゃいますか?」

振り向いた女の子は、思ったより年上だった。

「私、この家の娘ではありません。長谷さんにご用ですか?」

小柄な体から、はきはきとした声が返ってくる。

「ごめんなさい、猫と遊んでるから、てっきりこの家の方かと……」

「まあ、そう思われても仕方ないです。この近くに住んでいて、家族みたいなものなんで」

「トシ子さーん、綾川事務所からの方がいらっしゃいましたー!」

庭の奥から、帽子にエプロン、園芸用のゴム手袋をした女性が姿を現した。初老の、朗らかそうな雰囲気の人だった。

ー“こだわりのある人”と聞いていたけれど、少なくとも見た目はそんな感じじゃないー

「あらごめんなさい、約束の時間だったのよね。つい夢中になっちゃって。

庭先はまだ寒いわね。こちらへどうぞ」


+ + + + 

玄関ではなく、ウッドデッキから室内に通された。

1階のリビングには、大きな窓。観葉植物、ドライフラワー、枝や木の実――自然の造形が、部屋の空気を穏やかにしていた。

「すごい、素敵なお部屋ですね……実家が造園業で、うちにも祖父がいろんな木を植えてました。これ、なんでしたっけ……珍しいですね」

ハーブティーが、女の子の分も含めて三人分、用意された。

「実家はどちらなの?」

「水戸です。祖父と父が、そこで造園業をやっています」

「そうなの、水戸はいいところよね」

「行かれたこと、ありますか?」

「偕楽園とか弘道館とか。観光客が行くようなところだけど」

「偕楽園、祖父と父が管理のお手伝いしてます。私も水戸がとても好きで……本当は地元の大学に進学したかったんですけど、結局東京の大学しか受からなくて、就職後も配属先が東京だったので、そのまま残っていました…」

「いつかは水戸に帰るの?」

「それは……まだ分かりません。今は綾川事務所で先生のお手伝いをしながら、勉強したいと思っています」

「そう…学生と同じく4年間の契約だけど、それでいいのかしら?」

「はい。先のことは分かりませんが、ちょうどいい期間のような気がしています。4年間で、自分なりに何かを掴みたいです」

「そうね。今まで学生を受け入れてきたのは、夢を応援したかったから。……あなたなら大丈夫そうね。あなたの方は、ここでいいのかしら?」

「はい。よろしくお願いします」

「部屋、見なくていいの? 」

「この間空いたの、あそこの2階の左側の部屋よ」と、女の子が言う。

「大丈夫です。間取りは、事務所の方にいただいているので」

猫を膝にのせて、微笑む少女に、私もそっと微笑み返した。



ここまでは1章1節に続いて、既に書いてました。
でもここからが、政治事務所に関するの内容が必要になるなので、‟お勉強”が必要です。

ちょっと更新までお時間いただきます。

ー赤虎毛九作ー

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